生体防衛システムの1つである、下部脳幹から脊髄への下行性痛覚抑制系の機序をさらに詳細に解析するために、以下に焦点を絞って研究を進めた。20年度の研究より、青斑核刺激によって脊髄における抑制性シナプス応答が著明に増大される事を見出したため、青斑核刺激による抑制性シナプス応答の増大作用が観察される後角細胞の形態観察、また、抑制作用の増大に関与する受容体サブタイプの同定を行い、下行性抑制系の神経回路の詳細を明らかにした。小脳を一部除去した後、刺激電極を背側より青斑核へ定位に刺入・留置した。次いで、脊椎の椎弓を切除し腰部脊髄を露出させ、脊髄後角膠様質細胞からin vivoパッチクランプ記録を行った。青斑核刺激によって興奮性作用と抑制性の作用が観察され、その応答は記録細胞によって異なった。そこで、記録終了後に脊髄を固定・薄切して記録細胞の染色を行うと、興奮性作用が見られた細胞は樹状突起を頭尾側方向に伸展するislet細胞であった。一方、脊髄における興奮性の介在ニューロンにおいてのみ、青斑核刺激による抑制性シナプス応答の増大が観察され、この応答にはα1受容体が関与する事が明らかになった。以上より、下行性のノルアドレナリン神経は脊髄にてα1受容体を介して抑制性のシナプス伝達を促進して後角ニューロンを抑制することが示された。このノルアドレナリンを介した脊髄後角ニューロンに対する選択的な抑制作用が痛みを有効に抑えることが示唆された。
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