研究概要 |
子宮内膜症は,慢性骨盤痛・月経困難症・性交時痛などの急性および慢性疼痛を来す代表的疾患の一つである.疾患の発症頻度も高く,女性のQOLを大きく損なう疾患である.子宮内膜症の病態は慢性炎症としてとらえることができるが,その慢性炎症によって生じる疼痛は子宮内膜症患者にとって大きな問題であり,疼痛という臨床症状の緩和は大きな臨床的テーマである・本研究は,子宮内膜症により発症する疼痛に関連する分子機序を解明することと,子宮内膜症の発症環境となる因子を探索することを目的として施行した・昨年度までの研究で腹水中のNGF濃度は子宮内膜症の有無に関連しないものの,発症後の病状の進展や疼痛の発現には関連していることが示唆され,腹水中の分子が子宮内膜症の疼痛発症と病巣維持に関連していることが推測された・本年度は,子宮内膜症病巣をみとめ疼痛が強度の患者腹水と,子宮内膜症を発症していない患者腹水において,異なる分子の探索を進めた.CE-MS(キャピラリー電気泳動質量分析装置)およびLC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析装置)の技術を用いて、質量分析から代謝物質を特定するメタボローム解析を使用した。CE-MSを用いた腹水の解析では、14物質の定量値が子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者の間で有意差を認めた。またLCーMSを用いた解析では,両者に8つの物質に統計的な有意差が検出された。Methionine、Serine、Proline,Glutamineなどのアミノ酸や5-Oxoprolineなどのアミノ酸代謝経路上にある物質、およびリン脂質の一種が子宮内膜症患者の腹水において高濃度であった.子宮内膜症患者の腹水メタボローム解析により疼痛の強度な子宮内膜症患者に特徴的な代謝物質の傾向が検出された.
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