研究課題
疼痛は慢性化するにつれ、その病態に心理的要因の占める割合が大きくなることが多くなる。効果的な治療を行うためには、器質的・機能的障害に心理社会的因子が関与した病態と考える心身症としての見立てが有効となってくるのであるが、そのためにも慢性疼痛患者の身体面での変化が解明される必要があり、これを研究目的としている。我々は一酸化窒素(NO)を慢性疼痛の診断・治療指標候補として研究を遂行してきた。我々は神経因性疼痛において、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の活性化はNMDA受容体の活性化と密接に関連していることを明らかにしてきた。すなわち、神経因性疼痛モデルマウスの脊髄後角でNR2BサブユニットのC末端近傍の1472番目のTyr残基のリン酸化が顕著に増加しnNOS活性も増大するが、NR2Bサブユニットの選択的阻害剤でそのリン酸化が抑制され、nNOS活性の上昇も抑制される。今回我々は、NR2BのTyr1472をPheに置換してリン酸化出来ないノックインマウス(Y1472F-KI)を用いて神経因性疼痛が生じないことを確認した。従来の熱刺激や機械刺激による疼痛試験に加えて、試験者の主観が入らない客観的測定法、両足を独立した体重計にのせてそれぞれの足にかかる加重を測定するincapacitanceテストにおいてもY1472F-KIマウスに神経因性疼痛が生じていないことを確認した。炎症疼痛モデルではY1472F-KIマウスは野生型マウス同様に痛覚過敏反応が観察されたことから、NR2BのTyr1472のリン酸化は神経因性疼痛に関与するが、炎症性疼痛には関与しないことが明らかとなった。脊髄後角のシナプスではNMDA受容体を通って流入したCa^<2+>濃度の勾配が存在し、nNOSの活性化には細胞質からPSDへの移動を必要として、神経因性疼痛を維持することが示された。
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