神経損傷時には様々な因子が産生、放出されることが知られているが、それらで痛みの発生と調節に関与する物質の阻害剤を座骨神経切断後再生モデルマウスに投与して神経再生への効果を検討した。ATP受容体の広範囲な阻害剤であるSuraminを投与すると、術後4週から7週にかけて神経再生の遅れが認められた。Protein kinase Cの阻害剤であるRO318220およびエンドセリン受容体の阻害剤(BQ123、BQ788)は4週から5週にかけての軽度の遅れが認められた。一方、プロスタグランジンの産生を阻害するIndomethacinは効果が認められなかった。ナトリウムチャンネルも発痛に関与することが知られているが、Na+濃度依存性のチャンネルであるNaxは、脳内においては体液のNa+濃度を監視するセンサーとして働くことが知られているが、末梢神経系においての生理的な役割については不明である。Naxは座骨神経の非ミエリン形成型シュワン細胞に発現しており、Naxノックアウトマウスではこの発現が欠失しているが、神経線維の密度や大きさの分布等の組織像および電流刺激に対する各神経線維の反応性には違いが見られなかった。このマウスを用いて末梢神経切断再生モデルを作製し、後肢機能の回復を、von Freyフィラメント刺激に対する回避行動を用いて評価した。Naxノックアウトマウスでは野生型マウスに較べて術後4週目より有意な回復の遅れが認められた。また、電流刺激に対する各神経線維の反応性でも、C線維に対する反応閾値の上昇が認められた。神経の組織像を比較したところ、無髄神経密度の増加による総神経密度の増加が認められた。これらのことから、Naxノックアウトマウスでは末梢神経切断後の神経再生が抑制されていると考えられた。
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