これまでの研究結果より、Naxナトリウムチャネルが神経再生に関連する因子であることが判明したことから、Naxチャネルの役割の解明に焦点を絞って以下の実験を行った。(1)Naxチャネルと乳酸シグナルの関連性:NaxチャネルはNa濃度依存性のチャネルであり、グリア系細胞においては乳酸放出への関与が報告されている。wildおよびNaxノックアウトマウスを用いて座骨神経切断再生モデルマウスを作製し、乳酸および乳酸トランスポーターの阻害剤(α-cyano-4-hydroxy-cinamic acid、CIN)を投与して神経再生に与える影響を測定した。wildマウスにCINを投与すると、運動機能の回復の遅れが認められた。またNaxノックアウトマウスに乳酸を投与すると、運動機能の大幅な回復が認められ、この効果はCINを同時投与することで阻害された。次に、末梢神経でのグリア系細胞であるシュワン細胞における乳酸産生について検討した。シュワン細胞培養系において培養液のナトリウム濃度を上げると乳酸の放出が増加した。これらの結果より、生体ではNaxチャネルを介してシュワン細胞内部のNa濃度が増加すると、乳酸の再生および放出が増加し、これによって神経再生が促進していることが明らかとなった。(2)Naxチャネルとエンドセリン(ET-1)シグナルの関連性:神経が損傷すると、ET-1およびそのレセプターの発現が増加することが知られている。ET-1レセプターの阻害剤を座骨神経切断再生モデルマウスに投与すると、運動機能の回復が部分的に抑制された。シュワン細胞にET-1を投与すると、細胞内Na濃度が増加し、乳酸放出量も増加した。これらの効果はNaxノックアウトマウスの細胞ではみられなかったことから、シュワン細胞においてはNaxチャネルはET-1のシグナルを介して乳酸の産生放出を促進していることが明らかとなった。
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