本研究は、慢性疼痛発現維持機構の解明を目的としたプロテオミクス解析である。侵害刺激は、脊髄後角でシナプスを形成し、二次ニューロンを介して脳へと伝達され、「痛み」として認識される。このシナプスでの反応様式の変化や構成が増大する可塑的変化により神経因性疼痛が発症することから、神経因性疼痛モデルマウスの脊髄後画の後シナプス肥厚部(PSD)画分を用いた解析を実施してきた。 申請者らのグループはNR2Bの1472番目のTyr残基(NR2BY1472)のリン酸化が神経因性疼痛の発現に重要であることを明らかにしている。よって、NR2BY1472をPheに置換したノックインマウス(NR2BY1472FKI)と野生型マウスの両方を用い、そのリン酸化の下流における機能性分子を同定し、機能解析を通して慢性疼痛の発現機序を明らかにしようとするものである。これまでに、NR2BY1472FKIで神経因性疼痛モデル、Spared nerve injury(SNI)モデルを作製し、野生型との両方から腰部脊髄後角PSD画分を精製し、iTRAQ法を用いた解析でSNIにより発現の増加する分子(野生型30、KI型22)群を見いだし、NR2B Y1472のリン酸化に重要な分子として2分子に焦点を当てた。 さらに、下流のリン酸化を介した疼痛発現経路を同モデルで見いだし、この経路が脳を介した機序であるか、あるいは腰部脊髄で選択的に生じているかを明らかにするために、リン酸化酵素の阻害剤を腰部髄腔内に注入し、腰部脊髄で局所的な活性阻害をおこなった。その結果、腰部脊髄の局所的なリン酸化阻害により、神経因性疼痛による機械的アロディニアが有意に抑制されることがわかった。また、機能が未解明である2分子を標的蛋白として、iTRAQ解析によって同定したことから、現在これらの蛋白のノックアウトマウスの作製を開始している。
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