研究概要 |
筑波大学でゲーム理論の刑事法への適用可能性を探る研究会を重ねた。その中で,査察ゲーム理論と呼ばれるデータ検証のためのゲーム理論モデルを,刑訴法の証拠法にまつわる現象のモデル分析に応用できることが明らかになった。これを本研究課題の最も基礎的な理論モデルと位置付け,実際の刑事裁判に即した証拠法分析のゲーム理論モデルを構築し解析に着手した.これは,裁判官・陪審員が有罪と判断する証拠基準の強弱が犯罪率に与える影響をゲーム理論で分析する理論モデルである.理論モデルの分析から様々な結論が得られた.特に刑訴制度・法政策上,重要かつインパクトのある結論は次の3点である.(1)罰金と教育刑はともに犯罪率を低下させる.しかし,犯罪者の所得水準が低い場合は,罰金の方が犯罪抑止力に優れている.この結果は,経済発展の研究と刑事罰の歴史的研究の融合という新たな研究テーマの萌芽になると考えられる.(2)裁判官・裁判員が,冤罪や真犯人を無罪にしてしまう事を恐れる心的要因の強弱は,犯罪発生率に対して中立的・無相関である.わが国の裁判員制度の設計に重要な知見を与える分析結果である.(3)冤罪発生確率が最大値を持つような罰金刑・教育刑の水準が存在する場合がある.つまり,刑を厳しくして犯罪を抑止しても,冤罪が増える可能性がある.この状況は,証拠発生の確率分布に関する非常に複雑な仮定に依存していることがモデル解析から判明した.冤罪の制御が現実的に難しい点をモデルが表現していると言える.これらを含めたモデル分析結果を北海道大学(北海道大学グローバルCOEプログラム,以下の備考欄.2009年2月),大阪経済大学(同年1月)の研究セミナーで報告し,法学者・経済学者からの評価・コメントを得た.この平成20年度に着手した研究だが,当初計画通り基本モデルの構築が順調に進んでいる.
|