文献研究では、ワークライフバランス(WLB)・労働者のこころの健康・職場公正を中心に図書や資料を収集し、その実態や理念・考え方について整理し調査の準備をすすめた。 国内調査は、これらの文献研究の検討から、対象を長時間労働を強いられ交代勤務がありWLBがとりにくいと考えられる医療機関勤務者と地域とのかかわりが不可欠な地場産業関係者とした。調査予定時期に経済危機が労働・雇用環境に及ぼした影響は少なくなかったが、企業の動向を見守る中一定の落ち着きが見え始めると、WLB施策の対象として想定されがちな大企業より、むしろ中小企業の中に、限られた数とはいえ人に優しい働き方を志向し、安定した成長を遂げる企業が存在することがうかがわれた。こうした社会経済的背景から、地域の中で労働者の生活に配慮する中小企業や地域と密着した地場産業を、WLBの新たな視座を示唆する例として調査対象とした。 まず医療機関調査に着手し、看護師を中心にその勤務形態や職場特性に理解を深め、加えてワークライフコンフリクト、職場・家庭状況、仕事満足度、ワークスタイル選好、ソーシャルサポート、ワークストレスなどの項目を中心に質問紙を作成、二つの医療機関で調査を実施しデータを整理した。中小企業に関しては、地場産業調査として愛知県の絞り産業集積地域をフィールドとして開発し、フィールドワークと資料収集を開始した。 日本と同じ東アジアに属する韓国でのWLBの取り組み実態について、現地の企業経営者・幹部を対象に聞き取り調査を実施した。聞き取りからは、公営企業では育児休暇などとられているものの、民間企業では制度の有無やその利用状況が日本と大きく異なること、さらに民間の中小企業は生き残りに必死で、ワークライフバランスの制度そのものに非常に違和感を示し、多くが性別役割分業の考えを支持していることが示唆された。
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