本研究(「情報化社会における公序の形成・維持と法制度」)においては、21世紀の本格的な高度情報ネットワーク社会において国民・社会からの信頼が得られる法制度をどのように設計するべきかについての基本的な提言を行うことを目的としており、平成20年度にはその準備作業として次の観点から研究を実施した。 ・電子政府における法の実効性の担保、サイバースペースにおける法制度の整備のあり方 法制度を整備する上で、制定する法の実効性を確保するには、法が形式的意味で適正な手続で制定されるだけではなく、その内容について法の目的、目的達成手段等が実体的にも適正なものである必要がある。このため近時各地の自治体で制定が進められる自治基本条例に着目し、各条例の内容を分析して、住民の法に対する意識を明らかとする研究に着手した。その成果の一部は論文「自治基本条例の構造と動態」『九州国際大学法学論集』15巻2号で公表している。また、民意を反映する方法としては多用なものが考えられるが、国民を代表する議会の議員の選挙は最も重要なものであるところ、わが国においては女性議員の割合が他先進国と比較して少なく、民意の反映に偏りが生じる可能性がある。このため、女性議員を増やす手段としてのクォータ制や、ポジティブアクションによる男女共同参画推進の意義と問題点について研究し、その成果を「クォータ制と新たな政治秩序の形成」『九州国際大学社会文化研究所紀要』63号において公開した。 ・情報通信機器を活用する場合のリスクと法との関係 リスクマネジメントという概念に対して既存の法制度は十分に対応できず、いわゆるPDCAサイクル等は法制度とは整合しない一面を持っていることを研究し、その成果を「リスクマネジメントと法制度」『九州国際大学法学論集』15巻1号で公開した。また本論文は崔祐溶氏(東亜大学校法科大学院助教授)の翻訳により韓国の学術誌である『東亜法学』第43号に韓国語で掲載された。 平成21年度は上記観点の研究を継続しつつ、アメリカにおける近時の電子投票法制の研究に重点を置く予定である。
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