研究の最終年度となる本年度は、下記の研究成果を挙げることができた。 1サイバースペースにおける公序のあり方についての先行研究の再整理 直接民主主義の有効性、選挙以外の手段における民意表出の正統性、いわゆるE-デモクラシーの意義と課題などについて先行研究を整理し、ICTの発展が直接民主主義的傾向を増進させるとする議論が多い一方、偏った世論形成を危惧する議論も根強いことを明らかとした。 2高度情報社会における国家の役割の再検討 そもそも高度情報社会において国家という枠組みがどのような機能を果たしうるのかについて、プライバシー保護や個人情報保護など多くの側面で国家の主導的役割が求められていることが明らかとなったが、いわゆるドッグイヤーで深化するICTを法的手段で統制することの困難性も明らかとなった。 3高度情報ネットワーク社会において実効的に機能する法制度とはどのようなものか 本研究においては高度情報ネットワーク社会において実効的に機能する法制度の基本的指針を示すことを最終年度の研究課題としていた。これについては、日々深化するICTに対して柔軟に対処する法制度が必要であり、具体的には「行政無謬」という前提から脱却して、適切なリスクの把握に基づくリスクマネジメントを体現する法制度を構築することが必要である点を提言した。一方、混沌としているサイバースペースにおける公序を形成するには従来の法的枠組みの拡張解釈や拡大解釈では限界があり、「情報」をどのように法的に定義するかについて、法概念の最定立が必要であることも指摘した。
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