研究課題/領域番号 |
20608003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 俊正 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 准教授 (50212890)
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研究分担者 |
南部 伸孝 上智大学, 生命理工学部, 教授 (00249955)
チュン ウィルフレド 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (90467457)
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キーワード | 生体分子 / 原子・分子物理 / 光応答 / 反応動力学 / 非断熱遷移 |
研究概要 |
光生命化学を微視的立場から明らかにするために、理論的手法で原理的な立場からアプローチし、物理学・化学のことばを用いた下位の階層から生命活動の本質的理解を深めようと意図している。理論的なアプローチに基づいた反応動力学シミュレーションは、分子の動きを目で見られる形で、結合の開裂・変化を追跡することができる。とくに光励起された分子は基底状態へと非断熱遷移を起こす。この非断熱遷移を正確に取り扱える手法でシミュレーションを行い、生体分子の微視的な初期過程を解明するのを目的としている。 昨年度は、イソロドプシンのクロモフォアである9-cisレチナールについて単独分子の場合のトラジェクトリ計算を行った。イソロドプシン中では、9-cisレチナールはall-trans型に変化するが、11-cis型になるものもあった。すなわち、11-cis型の生成がレチナール周囲のタンパク質により抑止されていることがわかった。また、トラジェクトリが励起状態の井戸に捕捉されることがわかった。この井戸から外へ出るときに遷移状態の存在によるエネルギー障壁があり、反応時間が長くかかるようになっていることがわかった。さらに、この障壁のため、all-trans型への経路となっている、円錐交差領域への到達が起こりにくくなっていることがわかった。以上の結果から、2つの主要な実験事実、イソロドプシンの反応時間がロドプシンに比べて長いこと、量子収率が短いことを説明できた。したがって、イソロドプシンにおける9-cis構造の平面からのねじれがロドプシンにおける11-cis構造の平面からのねじれに比べ小さいことや基底状態への遷移が起こる領域で原子核の運動が遅いことが、2つの主要な実験事実の原因ではないということを示した。
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