PIWIファミリーは幹細胞維持や、小分子RNAのpiRNA(PIWI interacting RNA)を介するレトロトランスポゾンの抑制に関与することが知られている。マウスPIWIファミリーのひとつであるMILIの、生殖幹細胞における役割を明らかにするために、精巣性幹細胞に相当するGS (Germ stem)細胞を用いて研究を進めている。MILI欠損マウスより樹立したGS細胞においては、レトロトランスポゾン遺伝子IAPの発現上昇と、転写制御領域のDNAメチル化の低下を認めた。そこでこのMILI欠損GS細胞に、センダイウイルスベクターを用いてMILI遺伝子の導入を行い、MILIの機能回復による表現型の変化を解析してきた。piRNAの詳細な解析を行うために、MILIの発現を回復したGS細胞と、野生型GS細胞に発現する小分子RNAについて、大量シークエンスを行った。その結果、piRNAの発現は全体では野生型と比較すると約3倍に増加しており、さらに、IAPに対するpiRNAは約20倍に増加していた。piRNAは一次生成と二次生成により産生され、一次生成では5'末端にウラシル(1^<st>U)を、二次生成では5'末端から10番目にアデニン(10^<th> A)を含むpiRNAが産生される。回復細胞におけるIAP piRNAはセンス鎖の1^<st> Uが非常に多いが10^<th> Aの割合は低かったことから、回復細胞においてはIAP転写産物から一次生成によってpiRNAが生成されるが、二次生成は進行しないと考えられた。その一方で、レトロトランスポゾン遺伝子IAPのmRNA発現量や転写調節領域のDNAメチル化は、回復細胞においても、MILI欠損GS細胞と同程度であった。以上のことから、GS細胞においては、MILIの回復によってpiRNAの産生は回復するものの、IAPの抑制はできないことが示された。
|