2008年度はヒトiPS細胞を安定して樹立するシステムを確立した。山中4因子の導入により、正常ヒト繊維芽細胞から100種類以上の形態的にiPS細胞と思われるラインを樹立した。遺伝子発現や未分化マーカーの発現から、そのうち3ラインを最も良いiPSクローンと決定し、テラトーマ形成を検討したところ、全ての細胞でテラトーマが形成された。一方、ヒトiPS細胞から誘導した神経幹細胞を免疫不全マウスに移植した場合、予想に反して全てのケースで腫瘍を形成した。ヒトiPS細胞はマウスとは異なり、分化誘導を行った後でも、予想よりもはるかに多くの残存未分化細胞が存在していることが明らかになった。この問題を解決するため、トロント小児病院との共同研究でOct4エンハンサー制御下にGFPを発現するレンチウイルスを繊維芽細胞に導入した後にiPS細胞を作成し、分化誘導時にGFPの残存蛍光を指標に未分化細胞の混入を定量する方法を確立した。現在このような未分化細胞を効率よく除去する方法を検討しているが、この方法により安全なiPS細胞が濃縮できると期待される。 一方、ヒトiPS細胞から効率よく再生治療に必要なオリゴデンドロサイトを生み出す成熟した神経幹細胞を誘導することを試み、低頻度ではあるものの、オリゴデンドロサイトを誘導した。現在は成長因子の添加など培養条件を詳細に検討することにより、より高効率に移植治療に有用と考えられる神経幹細胞を得る方法を検討している。 初期神経幹細胞の未分化性に関する論文を、研究代表者を筆頭著者としてJ.Neurosciに発表した。
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