研究概要 |
本申請研究課題では、「脊椎動物初期発生における頭部感覚プラコード形成の分子機序の解明」を目指している。嗅上皮、レンズ、内耳といった個々の頭部感覚プラコードは、外胚葉の中でも、予定感覚プラコード領域と呼ばれる"非神経外胚葉組織"から誘導されることが両生類や鳥類の研究から示唆されているが、哺乳類においては不明の点が多い。そこで研究代表者は、平成20年度において、哺乳類初期発生のモデル系としてマウス胚性(ES)幹細胞を用い、外胚葉から非神経外胚葉を効率良く分化する誘導条件の研究を進めた。研究代表者らのこれまでの研究により、両生類の初期胚において、BMP4(体軸の腹側化因子)やDkk1(体軸の前方化因子)等の分泌タンパクが、予定感覚プラコード領域を決定する位置情報を与えることが明らかになっている(Matsuo-Takasaki et al.,2005)。またマウスES細胞を無血清培地で分散浮遊培養することにより、外胚葉から神経外胚葉が分化する事が知られている(Watanabe et a1.,2005)。これらの知見をもとに、マウスES細胞の分散培養初期にBMP4やDkk1を添加する条件(各因子の至適濃度、添加時期、添加期間)を検討し、非神経外胚葉分化への効果を調べた。BMP4を添加した場合、神経外胚葉への分化は抑制され非神経外胚葉(表皮の前駆細胞マーカーと考えられる、CK18ポジティブな細胞集団)への分化が誘導された。この効果は時期特異的で、分化5日目以降の添加では神経分化の抑制効果は消失した。またこの方法では、予定感覚プラコード領域のマーカーであるSix1やEya2などは誘導されなかった。そこで、脳P4のアンタゴニストとして働くNogginを添加することにより細胞内のBMP4濃度を調節し、その条件下でDkk1を添加した揚合においてのみ、Six1やEya2の発現促進を検出することができた。これらの結果は、哺乳類においてもBMP4やDkk1等の分泌タンパクが予定感覚プラコード領域の決定因子であり、分化機序が進化の過程で保存されている事を示すものである。
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