研究概要 |
嗅上皮・レンズ・有毛細胞などを生み出す感覚プラコードは、非神経外胚葉組織から分化することが両生類の研究等から示唆されているが、哺乳類における分化機序はほとんど不明である。研究代表者は、哺乳類初期発生のin vitroモデル系としてマウス胚性幹細胞を用い、非神経外胚葉を効率良く分化誘導する条件を明らかにし、感覚プラコードの分化機序の解明に繋げるため本研究課題を進めてきた。平成20~21年度においては、BMP4やDkk1等の分泌タンパク質がES細胞からプラコードへの分化を促進することを示したのに加え、細胞の生存や分化に関与すると考えられる細胞外マトリックス成分のファイブロネクチン上でES細胞を培養することにより、より効率良く非神経外胚葉(CK14,CK15,ΔNp63ポジティブ細胞)へ分化できることを明らかにした。 今年度は、BMP4存在下において細胞外マトリックス上で培養したES細胞の遺伝子発現の変化を、マイクロアレイにより網羅的解析した。その結果、これまでにADAMTS2(Procollagen I N-protease)やMMP9(Matrix Metalloproteinase-9)などの酵素が同定された。このうちADAMTS2はヒトにおいての皮膚の脆弱性などをおこすEhlers-Danlos syndromeの原因遺伝子の一つとされており、初期発生における非神経外胚葉の分化との関連性が注目される。今後、上述の遺伝子のES細胞での強制発現・ノックダウン実験により、非神経外胚葉分化での役割について明らかにしていきたい。 また、初期発生を制御する環境因子として重要と考えられる「酸素濃度」にも焦点を当て、ES細胞から非神経外胚葉分化への影響を評価した。その結果、低酸素濃度(3% Oxygen)条件での培養では、外胚葉のうちでも神経外胚葉への分化が顕著に促進されたのに対し、非神経外胚葉への分化促進は見られなかった。
|