研究概要 |
ES細胞ではゲノムワイドでクロマチン構造が弛緩しており,分化に伴い凝縮した構造へと変化する。しかしこのような幹細胞におけるダイナミックなクロマチン制御のメカニズムは殆ど未解明である。我々はマウスES細胞のプロテオミクス解析から、ES細胞核でクロマチン関連タンパク質群が高発現し、特にTIF1βが重要であることを見出した。TIF1βがそのC末セリンのリン酸化に伴いクロマチン構造を弛緩させる最近の報告に基づき、TIF1βが未分化なES細胞でC末が特異的にリン酸化され、ES細胞特異的なクロマチンの弛緩を引き起こすと仮説を立てた。実際にTIF1βは未分化ES細胞特異的にリン酸化されており、また初期胚の内部細胞塊でも特異的にリン酸化されていた。リン酸化型S824Dや非リン酸化型S824AのTIF1β変異体をES細胞で発現させたところ、LIF非存在下でリン酸化依存的にNanog、Oct3/4、Sox2などの未分化特異的転写因子群を発現上昇し未分化維持活性が観察された。一方、リン酸化依存的に神経分化抑制効果が観察された。更にOct3/4、Sox2、Klf4、cMycとTIF1β(S824A)を発現させるとほとんどiPs細胞が樹立されないが、TIF1β(S824D)を組み合わせた場合には各種未分化細胞マーカーが高発現したiPS細胞が樹立され、TIF1βのリン酸化がips化の過程で重要であることが示唆された。また、Oct3/4はTIF1βのリン酸化依存的にTIF1βN末に結合し、TIF1βがリン酸化依存的にOct3/4と協調してNanog近位プロモーターを転写活性化すること、さらにはChIPアッセイでNanog近位プロモーターにリン酸化依存的に結合することを示し、TIF1βがリン酸化依存的にOct3/4と協調して未分化ES細胞特異的な遺伝子群の転写活性化に関わることを明らかにした。
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