研究概要 |
(研究の目的)インフルエンザ脳症は、主に小児の感染で問題となる重篤な合併症の一つである。脳症を引き起こす一つの要因として、解熱剤の非ステロイド系の抗炎症剤(NSAIDs)で起こるライ症候群での急性壊死性脳症があるため、現在ではその投与は禁忌となっている。一方、我々の最近の研究から、インフルエンザの高熱持続が、熱不安定性遺伝子多型を有する患者において、ミトコンドリアでの脂肪酸代謝障害を介する全身のエネルギー危機を引き起こし脳症発症に繋がる事が明らかとなった事から、これらの患者では解熱剤の処方が不可欠となる。そこで、今年度の研究では、前年度の研究成果に基づき、インフルエンザ感染に伴う発熱でのNSAIDsの併用を念頭に、脳症発症に重要な脳浮腫を引き起こす原因となる、これらファクターの血管内皮細胞の透過性亢進機構について分子レベルで解析を行った。 (研究の成果)インフルエンザ感染及び脳症を誘発するNSAIDs(ジクロフェナック)の、血管内皮細胞間タイトジャンクション障害機序について、HUVECを用いたin vitro解析システムで検証した。その結果、インフルエンザウイルスに感染した血管内皮細胞内では、ウイルスによるZO1等の裏打ち蛋白質の局在変化と分解促進によるタイトジャンクションの崩壊が誘導されている事、又、ジクロフェナック等のNSAIDsは、これとは別に、,裏打ち蛋白質の合成そのものを阻害することで、インフルエンザ感染による血管内皮細胞間タイトジャンクション障害を促進している可能性が考えられた。一方、39~40℃の熱ストレスは、血管内皮細胞間のタイトジャンクション崩壊に影響を与えなかった。今回得られたこれら成果に基づいて、今後その詳細を明らかにしていく予定である。
|