生薬「釣藤鉤」の主アルカロイド成分であるhirsutine(HS)の生体内代謝物11-glucuronylhirsutine (GHS)は脳室内投与において、アポモルヒネ誘発マウスの異常行動を抑制する。本実験ではHSのもう一つの代謝物11-hydroxyhirsutine (11-OH-HS)の異常行動抑制効果を同動物モデルにより評価した。結果、11-OH-HSには有意な抑制効果はみられなかった。よって活性発現メカニズムの解明にはGHSを用いることにした。異常行動抑制作用にはドパミン及びグルタミン酸神経系が関与しているので、これら神経系に関与する受容体へのGHSの結合能について検討を行った。ラットの脳から調製したドパミン(D_2)、グルタミン酸(NMDA及びカイニン酸)及びシグマ受容体膜画分と各受容体に対するRIリガンドを用いた受容体結合置換実験により、GHSはいずれの受容体に対しても親和性を示さないことが明らかになった。 また、GHSによる脳内のドパミン代謝回転の変化についても検討した。アポモルヒネを投与したマウスのドパミン神経系では、シナプス後膜側のドパミン受容体の活性化により前膜側へとネガティブフィードバックが起こり、ドパミン代謝回転が低下する。異常行動を抑制するドパミンD_2受容体阻害薬はシナプス後膜の受容体を阻害するため、アポモルヒネによるネガティブフィードバックが起きず、ドパミン代謝回転は低下しない。今回の実験においても典型的な抗精神病薬のハロペリドール(D_2アンタゴニスト)を投与したマウスでは、アポモルヒネによる脳内ドパミン代謝回転の低下は起きなかった。しかし、GHSを投与したマウスのドパミン代謝回転はアポモルヒネにより低下した。この様に、GHSの異常行動抑制効果はドパミンD_2受容体を介した作用ではないことが明らかになった。
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