ある種の植物は、水や養分を吸収する際に汚染土壌中の重金属も体内に取り込み、高濃度に蓄積することが知られている。本研究では、放射光マイクロビームを用いた蛍光X線分析とX線吸収微細構造(XAFS)解析により、植物細胞レベルで有害元素の蓄積部位とその化学形態を明らかにし、その蓄積機構を解明することを目的としている。今年度はアブラナ科の植物ハクサンハタザオにおけるカドミウムの蓄積機構について、興味ある知見が得られた。 カドミウムを含む培養液で栽培したハクサンハタザオの葉を試料とし、約1μm角の放射光X線マイクロビームを使った蛍光X線二次元イメージングを行った。X線のエネルギーはCdのK線が効率よく励起できる37keVとした。 その結果、カドミウムは葉の表面にある毛状突起細胞(トライコーム)において高濃度に蓄積されていることがわかった。1細胞からなるトライコームの中でも特に分岐下部において蓄積しており、この蓄積部位には亜鉛と正の相関が見られたことから、カドミウムの蓄積機構には同族元素である亜鉛との関連が示唆された。 さらにX線マイクロビームを用いてカドミウムのK吸収端のXANES測定を行い、トライコーム細胞内に蓄積されたカドミウムの化学形態を調べたところ、酸素あるいは窒素と結合した化学種であることがわかった。このように高エネルギー放射光X線マイクロビームを利用することで、細胞内におけるカドミウムの分布と化学形態を初めて明らかにすることに成功した。従来、植物内におけるカドミウムの無毒化機構として、カドミウムはシステインやファイトケラチンなどのチオール基と結合した化学種で存在するといわれていたが、カドミウムの高集積能を有するハクサンハタザオのトライコームにおいては、このような化学種ではなく酸素あるいは窒素と結合した化学種であるという知見は非常に興味深い。
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