本年度は、引き続き放射線グラフトと放射線還元による燃料電池用触媒層の合成条件の最適化を行った。さらに、触媒層の作製条件および白金微粒子の担持量及び炭素担体であるカーボンブラックとカーボンナノチューブの配合に及ぼす燃料電池性能への影響について詳細に検討した。また、白金の担持量の微量化と触媒性能の長寿命化のため、放射線還元反応による白金微粒子形成方法についても検討を進めた。特に、触媒性能の長寿命化については、グラフト高分子鎖の耐熱性などを考慮することで、耐久性の高い触媒層を構築した。 開発された触媒層の作製法を基に、ガス拡散層であるカーボンペーパー上に触媒層を"その場"形成することで、簡便なプロセスで燃料電池用電極の作製法を見出した。すなわち、カーボンペーパーに、白金微粒子前駆体である塩化白金錯体化合物、高分子電解質水溶液及びカーボン担体の混合物を塗布した後、放射線を照射することにより、塩化白金錯体化合物を白金微粒子に還元し、カーボン担体に担持した。さらに、放射線グラフト重合を利用することで、触媒層の重要な組成物である高分子電解質をビニルモノマーから"その場"で合成することを検討した。その結果、グラフト重合された高分子電解質が白金微粒子をカーボン担体表面に固定され、燃料電池電気化学反応に必要な三相親和層を高効率的に形成することに成功した。このように作製した電極を用いて、高分子電解質膜・電極接合体(MEA)を作製し、燃料電池性能を評価したところ、低い白金担持量(0.1mg/cm^2)にもかかわらず、市販MEA(白金担持量0.4mg/cm^2以上)と同等、またはそれ以上の出力を実現できた。その結果を特許に出願した。
|