研究概要 |
1.静電型イオン貯蔵リングと合流型電子標的を用いて、陽子付加およびNa^+付加DNA二量体の一価正イオンと電子の衝突を研究した。衝突によって放出される中性粒子の衝突エネルギー依存性は、典型的な電子捕獲解離のパターンを示す。すなわち、中性粒子生成率はゼロに近い低エネルギーで増加し、且つ、より高いエネルギーで共鳴状のバンプを持つ。このバンプの高さは、付加するNa^+イオンの数と共に増加する。分子力学と半実験的量子化学の計算によって、この現象が塩基-塩基の相互作用によることが判明した。また、Na^+イオンだけでなく、Li^+やK^+イオンでも同様の現象が起ることが確認できた. 2.静電型イオン貯蔵リングと波長可変OPOレーザーを用いて、リングに貯蔵された生体分子イオンの光吸収を研究した。従来、液相にある分子の光吸収の研究が行われてきたが、液相では溶媒の影響が大きく、分子単体の光吸収を観測することが困難であった。それに対して、静電リングを用いる方法では光吸収の結果放出される中性粒子を検出することによって高効率で分子単体の光吸収を測定することができる。 緑色蛍光タンパク質(GFP)の発色団(chromophore)の負イオンでは波長480nm付近で強い吸収が観測され、吸収のスペクトルがイオンの貯蔵時間によって変わることがわかった。また、中性粒子放出のthresholdは量子化学で求められている電子親和力と一致する。 蛍光色素(5-carboxyfluorescein)の負イオンでは、吸収極大波長が液相で測定された吸収波長だけでなく放出波長領域にまで及ぶことがわかった。現在、この理由を追究中である。 葉緑素(chlorophyll a,b)の負イオンの光吸収では吸収スペクトルが液相でのスペクトルと大きく異なる。chlorophyll aの吸収thresholdは、他の方法で求められた電子親和力と一致するが、chlorophyll bは異なる。また、負イオンは一光子吸収であるのに対して正イオンは二光子吸収によると考えられる。
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