半導体デバイスの多くは、有害元素や稀少金属(レアメタル)を用いている。本研究では、第一原理計算の立場から、ドーピングによる化学結合変化と電子物性発現の関係を明らかにし、稀少金属と同等の性質をもつ安全・低コストの代替物質の設計を目的とした。H20年度は、ITOに替わる透明電極材料として有望視されている、ニオブ元素(Nb)をドープしたアナターゼ型酸化チタン薄膜(TNO;Titanium Niobium Oxide)を研究した。 隣接したNb-Oi構造(Oiは格子間酸素)とNb-VO構造(VOは酸素欠陥)の存在を仮定すると、複数の実験事実を説明できることは国内外の研究グループにより既に指摘されており、Nb-VO構造が高い伝導性発現の鍵と予想される。ただ、Nb-VO構造がエネルギー的に不安定(〜0.1eV程度)であるため、実際の安定な物質では、部分的Nb-VO構造からなる複合体が存在していると考えられる。 そこで本研究では、未知の複合体構造を計算シミュレーションにより探索し、その安定性を評価した。その結果、VO-Nb-VO構造やVO-Ti-VO構造など、4配位のNbとTi原子を含む構造において、特徴的なエネルギーの安定化が見いだされた。Bader解析を用いるとこれらの構造では、恥およびTi原子が強く負に帯電しており、これが、高伝導性の発言に寄与していることを初めて具体的に明らかにした。さらに、これらの構造を表現するポテンシャル関数を開発し、酸素欠陥近傍でのO-Nb-O構造・O-Ti-0構造間の相互作用を記述可能とすることで、より大規模なシミュレーションによる系統的な構造探索を可能とすることに成功した。
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