本研究は、インジウム枯渇問題に対処するべく、透明電極ITOの代わりに金属を用いても有機EL素子が実現できることを実証することを目的としている。本年度は、実験と理論の両面から、(金属/誘電体/金属)構造(MIM構造)の誘電体層に発光色素層を埋め込んだ構造での、色素からの蛍光特性を詳細に調べた。実験の結果、金属層のない試料からの蛍光に比べて、金属層を設けた場合の蛍光ピーク強度が最大で25倍増強されていること、また積分強度も6倍程度増強されていることが分かった。発光体を振動するダイポールと仮定し、理論計算を行ったところ、半定量的に実験結果が説明できた。通常、蛍光の増強は、入射電場の増強と蛍光体の輻射遷移割合の増大によって説明される。理論計算の結果からは、今回観測された蛍光増強は、入射電場増強によるものではなく、輻射遷移割合の増大によるものと結論される。これは、蛍光寿命の測定結果と定性的に一致している。このような、輻射遷移割合の増大は、Purcell効果によって説明される。つまり、発光体をMIM構造に埋め込むことにより、光子の状態密度が上がり、それにより遷移割合が増大するというものである。電磁気的な観点からは、光子状態密度の増大は、MIM構造に特有の輻射的な表面プラズモンモードとTE_0モードの存在に由来していると結論される。今回の発光増強が、発光側での増強によることから、同様の発光増強が、電流注入励起の場合でも起こりえることから、MIM構造を用いた有機EL素子の実現が十分可能であることが予想される。
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