研究概要 |
本研究は、インジウム枯渇問題に対処するべく,透明電極ITOの代わりに金属を用いても有機EL素子が実現できることを実証することを目的としている.本年度は、(金属/誘電体/金属)構造(MIM構造)の金属層としてAgを用い,さらに誘電体層に有機色素のAlq_3膜を埋め込んだ構造について,昨年度よりより詳しく実験と理論の両面から発光特性を調べた.実験に関しては,昨年度までは行っていなかった発光寿命の測定を新たに行った.理論計算に関しては,昨年度までは取り入れてなかった色素層本来の量子効率およびMIM構造中でのDecay Rateの変化を取り入れた計算を実施し,より精密に実験との比較を行った.発光寿命の測定結果からは,発光増強がみられる波長領域で,金属層の存在しない参照用試料に比較して寿命が短くなっていることが観測された.この結果は,理論計算から得られるTotal Decay Rateの波長依存性と定性的に一致している.また,より精密な発光計算の結果と実験で得られる発光スペクトルの振る舞いは,良い一致を示した. 以上のことより,1)MIM構造に埋め込まれた発光体の発光強度およびパワーの増強は,光励起の過程よりもむしろ発光の過程で生じていること,2)MIM構造に埋め込まれることにより,発光割合が増大し,等価的な量子効率が増大すること,3)発光にはMIM構造特有のTM_0及びTE_0モードが関与していることが結論された.これらの結果は,電気的な特性に問題がなければ,透明電極ITOの代わりにAg膜を用いることで高効率の有機EL素子が作製可能であることを示している.
|