研究概要 |
過去2年間において行ってきた研究では,蛍光体の開発では発光寿命の理論解析もまた重要であると痛感した.そこで,研究最終年度では発光寿命の理論解析手法の確立を目指して研究を行った.これまでに行ってきたYPO_4:Mnの相対論DVME計算を大規模クラスタにて行った結果,新たに電子相関効果が過大評価されていることを見出した.この効果は2電子演算子にのみ影響するので多重項状態のエネルギー固有値が過大評価される問題を有するが,スレーター行列式を構築する際に必要となる一電子波動関数自体には影響しないので自然放出確率を与える振動子強度には問題ない.計算された振動子強度を用いて発光寿命を見積もった結果,時定数のオーダーは実験値とよく一致することが判明した.従って,相対論DVME法による理論計算は発光寿命の見積もりに対しても有効である. YPO_4:Mn,Zrにおける発光増大現象は,電荷補償機構によって説明されてきた.その一方,電荷補償条件を満たしながらも発光増大を生じない共賦活イオンが存在することも報告してきた.この結果が示唆するのは,発光増大現象を支配するのは電荷補償機構ではなく,より本質的な機構が存在することである.この点の解明を念頭においてX線吸収微細構造(XAFS)実験をSpring8で行った.その結果,共賦活イオンが母体格子中に導入されない限り電荷補償が有効に作用しないことを見出した.つまり,母体格子中に導入されるかどうか,が発光増大を可能にする最も本質的な機構であることを見出した.
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