研究概要 |
物質・材料研究機構(NIMS)で開発された「ニッケル省資源型高窒素ステンレス鋼(HNS)」は、高耐食、高強度、非磁性の特長を有するニッケル省資源型のステンレス鋼で、今後の展開に広く期待されているが、最大の問題点は、窒素(N)の固溶による加工性の低下である。そのため、金属材料の種々の組織制御法を用いて、実用化上、加工可能な制御プロセス指針の提案を目標としている。具体的な組織制御法としては、結晶粒微細化による均一伸びや靭性の確保である。平成20年度は、鋼中に細かい窒素化合物を析出させ、それを起点に再結晶法による結晶粒微細化を図る。窒素化合物を生成する元素として、Ti,B,Nb等について検討した。併せて、冷間加工による予ひずみの影響についても調査した。その結果、Nbを添加元素とし、冷間加工度80%と、900℃×5分間の熱時効処理を組み合わせることにより、受け入れ材の結晶粒径が70~100μmであったものが10μmまで微細化でき、その結果、伸びが40%から50%程度に増加した。また加工性の指標となるランクフォード値も0.7から1.0に増加したことから、上記のような組織制御法が加工性向上に有効であることを示した。平成21年度は、このような加工プロセスを用いて、実際に薄板加工やシームレス細管加工への適用性を検討した。その結果、冷間薄板加工については、板厚0.18mmで、結晶粒径:10μm程度、シームレス細管加工については、Φ1.4mmで、肉厚:0.1mmで、結晶粒径:12μm程度のものが加工できることを示した。今後の課題は、このようにして得られた素材が、高ひずみ加工後も、本来材料特性として有している高強度、高耐食性、非磁性の機能を失うことなく、構造部材としての材料健全性を維持できるかどうかである。
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