本研究では嗅覚情報に注目し、映像に合わせて匂いのセンシングを行う。そして、香りと映像をインターネットで遠隔地に伝えて、嗅覚ディスプレイで香りを、コンピュータ画面上で映像を同時にリアルタイムで再生させる。まず、本年度は使用する水晶振動子センサの感度向上を検討した。感度向上は匂い発生源とセンシングの位置がずれていても検出できるために必要である。Lipopolymerと金ナノ粒子を用いてさらに物理吸着層を設けることにより感度が向上した。次にワインのソムリエ訓練用の香りを多数測定してその中から応答速度等が優れた香りを6種類程度選択した。そして、ターンテーブル上に試料を置いてターンテーブルを遠隔制御で回転させて測定できるようにした。ターンテーブルを用いたのは限られたスペースの中で多数の匂いサンプルの選択を行えるようにするためである。匂いセンシングと同時に画像も取得し遠隔地で再現する。また、匂いサンプルはその香りを連想するような形状のオブジェクトにフレーバをつけることで行った。これは以前の展示会では試料瓶の中にフレーバを入れただけだったので映像と香りのマッチングが弱かったためである。それから、大気中で不規則に変化する匂いの識別を行う場合に識別率向上が課題である。変動するセンサ応答が匂いの濃度変動の影響なのか外乱の影響かを短いタイムスパンで判定する必要があり、この判定が確実でないと外乱のみの場合も識別を実行してしまうので、識別率が低下する。本研究では過渡応答検出信号を用いさらに匂いの有無を判定する閾値を自動設定する方法を導入した。その結果、匂いの有無を判定する信頼性が向上した。このアルゴリズムはまだ匂いの識別アルゴリズムと組み合わせて使用していないので、システム内に組み込んで動作を検証する。
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