本年度はまず匂いセンサにおける遅延時間の改善を行った。匂いをチューブで吸引してセンサセルに導くのではなく、セミクローズ型のセンサセルを製作して、センサの位置を応答速度の観点から最適化した。その結果、チューブ方式に比べて応答速度が改善した。 また、瞬間瞬間で変動する匂いセンサの応答パターンを認識するにはロバストな匂い識別アルゴリズムが必要であるが、本研究では従来用いていたLVQ(Learning Vector Quantization)法に代わってSVM(Support Vector Machine)を導入した。SVMはマージン最大化を行いながら判別境界を決定するために、環境変動に対するロバスト性が期待できる。判別境界の検討を行った後、長時間にわたってセンサ応答を測定しながら匂い識別を行い、LVQより優れた判別率をSVMは維持できることを確かめた。 さらに匂いセンサと画像を同期させながら伝送する手法を改善した。以前の手法では匂いと映像を同期させるためには画像の更新速度を毎秒1フレーム程度に落とす必要があり、十分な動画像の画質は得られていなかった。本研究では、専用のデータ伝送フォーマットを作成しパケットに分割しUDPプロトコルにより伝送する。受信する側ではパケットを受信する毎にタイムスタンプ及びデータ種類を読み出し同一のデータ種類ごとにデータの連結を行った上で嗅覚ディスプレイまたはコンピュータスクリーンへ転送するようにした。その結果、毎秒10フレーム程度の伝送が可能になり滑らかに映像を表示できるようになった。 この装置を用いて大学祭では344名に体験してもらい、匂いと映像の一致や匂いによる臨場感の向上に関して9割以上の体験者より肯定的な回答を得た。さらに大学と日本科学未来館をインターネットで結んで遠隔地から匂い発生源の場所を探索するゲームを行った。数十名の方にゲームを楽しんでもらい好評であったが、デモの途中で震災にあい途中で中止をよぎなくされた。
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