神経生理学的実験に向けた予備実験として、サルにとって新規な視覚刺激であるフラクタル図形に対するサルの嗜好性を検討した。2頭のマカカザルを用いて実験を行った。どのサルにとっても未経験で新奇な視覚刺激であり、生物学的に無意味な刺激を用いて実験を行うため、1000枚のカラー・フラクタル図形を使用した。その中から類似性のない30枚の図形を取り出して刺激群とし、このような刺激群を10群作成した。各刺激群に含まれる図形からランダムに選択した2枚を同時にモニター上に呈示し、どちらか一方の図形を眼球運動によりサルに選択させると同時に、選択した図形をモニター中央に呈示し、サルがそれを12秒間見続けると報酬を与えた。各刺激群に含まれる図形を10-15セッションにわたって呈示し、刺激群に含まれる図形ごとの報酬獲得率をもとに図形をランク付けしたところ、高頻度で選択される図形とほとんど選択されない図形が見出された。特定の図形の選択確率は、図形の呈示頻度とは無関係であり、また、報酬との連合によるものでもなかった。また、選択確率のセッションによる変動は少なく、高頻度で選択され、報酬を獲得する確率の高い図形はセッションを通してほぼ一定していた。また、選択確率の高い図形と低い図形を各刺激群から集めて作成した刺激群で同様の検討をしたところ、選択率の高い図形と低い図形の間で、選択率の有意な相違が観察された。この結果は、サルにとって無意味で新規な刺激に対して嗜好性が生じることを示しており、フラクタル図形に対するサルのこのような行動を利用することにより、図形に対する嗜好性と「快」感情との関係を明らかにできると考えられる。
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