neutralな視覚刺激に対して、物理的な報酬とは無関係に生じるpositiveな感情の生成には脳のどの部位が関係しているのか、ヒトによって刺激の好みが異なるが、個体による選好性の違いはどのようなメカニズムで生じるのか、の疑問に対する解答を得るのが本研究の目的である。サルの前頭葉眼窩部や前頭連合野腹外側部より記録される単一ニューロン活動の解析により、これらの領域が報酬の予期や報酬出現の検出に関わっていることが明らかになっている。本研究では、選好性の強さが行動学的な検討で明らかになった70種類のフラクタル図形(選好性の高い20種類、選好性の低い20種類、中間の30種類)を使用し、これらの刺激に対する前頭葉眼窩部ニューロンの応答を解析した。約300個のニューロンの活動を記録し、解析した。個々のニューロンの刺激による選択性には著しいばらつきが見出されたが、選好性の異なる3つの刺激グループ間で応答の大きさを比較したところ、選好性の強さの違いにより応答の大きさの異なるニューロンが約30%存在した。多くのニューロンは選好性の強さに比例して応答も大きくなる傾向が見出されたが、少数のニューロンでは反比例し、選好性の低い刺激に対して大きな応答を示す傾向が見出された。選好性の強さの違いによる応答の違いは、いずれかの刺激グループの少数の刺激に対する強い応答によるものではなかった。このように、前頭葉眼窩部のニューロンの視覚刺激に対する応答の強さの変化は、行動学的に得られた刺激に対する選好性の違いと対応づけられることが明らかになった。したがって、neutralな視覚刺激に対する選好性の違いは、刺激に対する前頭葉眼窩部ニューロンの応答の違いにより説明されるのではないかと考えられる。
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