研究概要 |
平成20年度においては,次の2つの成果を得た: (1)ゲノムレベルでの薬剤作用機序を明らかにするためには,通常,薬剤応答のマイクロアレイデータを計測し,薬剤を投与していないコントロールのデータと比較してどのような遺伝子が有意に発現を変化させているかを調べる.このとき,薬剤の影響は遺伝子のパスウェイを通して伝播するため,どのようなパスウェイが薬剤から影響を受けているのかを明らかにすることが求められてる.この目的のため,統計的グラフィカルモデルの一つであるベイジアンネットワークを用いてマイクロアレイデータを解析し,薬剤に影響を受けた遺伝子のパスウェイをあきらかにする研究が行われている.しかしながら,ベイジアンネットワークの学習はNP困難であるため最適解が求まらず,発見的方法により学習したモデルではその制度にもんだが残っていた.そこで,ベイジアンネットワークの上位構造が与えられたときに最適解を探索できるアルゴリズムを提案した.また,統計的仮説検定に基づき上位構造を推定した場合でも提案したアルゴリズムは他の発見的アルゴリズムよりも優れた性能を示すことを数値実験により確かめた. (2)ある薬剤を投与して遺伝子発現の時系列変化を計測したとき,どの遺伝子が直接薬剤から影響を受けていたのかを検出することは,薬剤非投与のコントロールデータとの単なる比較では不可能である.この問題に対して,薬剤による遺伝子ネットワークの構造変化という観点からアプローチし,状態空間モデルに基づく検出手法を確立した.この方法をヒト上皮肺細胞にイレッサを投与した時系列マイクロアレイデータに適用し,イレッサに直接影響を受ける遺伝子の同定を行った.その結果,遺伝子が受けている影響がイレッサから直接もたらされたものなのか,それとも,遺伝子のパスウェイを介して間接的に伝播されてきたものなのかを区別することが初めて可能となった.
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