神経情報処理を恒常的に維持するためには、シナプス伝達が安定して行われる必要がある。伝達物質受容体はシナプス後部にありさえすれば、伝達物質を受容し多かれ少なかれ応答することが出来る。一方、シナプス小胞は内包する伝達物質を放出してしまったらそれで終わりである。そのままでは速やかにシナプス伝達が止まってしまう為、シナプス小胞はリサイクリングされる。シナプス小胞のリサイクリング機構を明らかにすることは、シナプス伝達の恒常性を考える上でも重要な意味を持つだろう。しかし、これまでのところシナプス小胞のリサイクリング過程を可視化することに特化したプローブは開発されていない。そこで、シナプス小胞に局在することが明らかであろうシナプトタグミンを、分子ターゲットとすることを考えた。シナプトタグミンと蛍光タンパク質のフュージョン蛋白質を発現させることも可能性ではあるが、エンドサイトーシスを可視化することを考えると、様々な問題が生じる。そこで、細胞外からシナプトタグミンをラベルする方法が妥当であると考えた。少なくとも2つの方法が考えられ、抗体を用いる方法とボツリヌス菌毒素の部分配列を用いる方法である。抗体は特異性の上で優位であるが、シナプス小胞内は中程度の酸性条件下(pH5.5程度)であるため、一般的に抗体は外れやすくなってしまう。一方ボツリヌス菌毒素のシナプトタグミン結合部位は、酸性条件下に対する耐性が比較的強いことを示した。大腸菌発現系を用いた結合部位のリコンビナントタンパク質の取得を試みているが、現在のところ適切な条件は定まっていない。十分な量の結合蛋白質を用意するためには、リコンビナントタンパク質の取得条件を先に詰めておいた方がよいと考えている。
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