加齢による記憶力の低下(加齢性記憶障害)は脳老化の重要な表現型である。寿命が約30日で、定量的な学習記憶行動解析が可能なショウジョウバエは加齢性記憶障害の分子メカニズムを明らかにするのに適したモデル動物である。加齢性記憶障害の変異体検索から見出されたsol変異体は、加齢体の記憶力が野生型と比べて顕著に低下していた。そこで本年度はこのような記憶力の低下が、脳の早老によるものなのか?または加齢体特有の学習記憶メカニズム(が存在し)の特異的な障害なのか?を知るため、各日齢のsol変異体で、学習記憶行動の解析を行った。その結果、野生型では明確な記憶低下が15〜20日齢にかけて起こるのに対して、solでは10日齢で既に明確な記憶低下を観察した。従ってsol変異により加齢性記憶障害の発現が早くなる(脳の早老)ことが示唆された。また若いsol変異体では学習獲得から長期記憶等への各記憶統合過程で異常が見出されなった。加えて寿命も野生型と変わらなかった。 以上の結果から、solでの加齢性記憶障害の亢進は寿命が短くなったことに起因するのでなく、脳の老化の特異的亢進に因ることが示唆された。sol変異のマッピングを行ったところ、sol変異体ではP因子がnep遺伝子とtacc遺伝子の間に挿入されていた。そこでsol変異体でnepとtaccの発現量を調べたところ、何れの遺伝子発現量にも顕著な変化が見られなかった。これらの結果からsolではP因子がnep、taccとは異なる遺伝子のエンハンサー領域に挿入された系統であることが推測された。
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