正常組織の血管内皮細胞は、互いに隣接する細胞間でタイトなジャンクションを形成しており、高分子ナノキャリアの血中から組織実質への輸送は著しく制限されている。従って、トランスサイトーシスによつて細胞単層を透過可能なキャリアが構築できれば、血管内皮バリアの克服につながり、DDS研究の究極的な目標である血中投与を介した組織実質移行性ベクターの実現への大きなブレイクスルーとなる。トランスサイトーシス研究が困難である理由の一つとして、評価系の確立が不十分であるという点が挙げられる。これまで、低分子の系細胞輸送を行うための評価系として、トランスウェルをもちいた方法が主であったが、本系を用いるには、ナノ粒子が透過できるほどの大きなボアサイズのものを用いる必要があり、また、一方、大きなものを使用すると細胞が小孔まで詰まってしまうという問題点があった。本年度は、京都大学の田畑教授と共同でゼラチンナノファイバーシートを用いたトランスウェルを開発した。本システム上にMBEC4細胞を単層培養し、様々なペプチドを表面に修飾したリボソームのトランスサイトーシスを評価した。その結果、Clone95ペプチド搭載リボソームがマウス脳毛細血管内皮細胞由来の不死化細胞(MBEC4)において高いトランスサイトーシス活性を有することを明らかとしている。また、本リボソームの細胞内動態解析を行った結果、従来とは異なる取り込み経路により取り込まれ、細胞内における分解系であるリソソームとの局在も回避できる可能性が示唆された。また、極性細胞(MDCK)におけるオクタアルギニン修飾キャリアの細胞内動態制御を行った結果、細胞内輸送のソーティングに重要な役割を果たすゴルジ体へ輸送されることを明らかとしており、現在論文投稿を行うとともに、トランスサイトーシスの評価を行っている。
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