筋芽細胞の分化・増殖を抑制するサイトカインを標的とし、その発現をRNA干渉(RNAi)技術を用いて特異的に制御する分子標的療法を開発し、長期臥床高齢者のリハビリテーションのための全く新しい筋肉の再生医療につなげることを目標とする研究を行った。このサイトカインに特異的なshort inter fering RNA (siRNA)(siC)を数種合成し、マウス筋芽細胞株に導入したところ、同遺伝子の有意な発現低下が認められ、また筋芽細胞の増殖能が亢進することが、real time RT-PCRとテトラゾリウム塩アッセイにて示された。in vivoでのsiCの効果を検討するために、マウス骨格筋へのsiRNA導入法に改変を加え、効率の向上を行った技術を用い、siCをマウス骨格筋にin vivo導入し、経時的にマウスを安楽死させ、筋肥大の指標として筋の断面積を測定した。さらに筋の収縮能の変化を評価する目的で、一定の電気パルスを与えたときの筋の収縮力を計測した。その結果、siRNAを導入しなかったマウスの筋、および非特異的siRNAを同様の手法で導入したものに比して、siCを投与した群では有意に筋断面積が増加し、このサイトカインの特異的サイレンシングにてin vivoで筋肥大が誘導できることが分かった。また収縮力がコントロールと比べて有意に増強していたことから、肥大筋が収縮能でも強まっていることが示された。また、得られた筋細胞を培養し種々のアッセイで解析することにより、さらに上記の所見をコンファームする結果が得られている。本研究の成果は、廃用性萎縮筋の肥大と増強が、サイトカインを標的とするRNAi分子標的療法にて生体内で可能なことを初めて示したものであり、長期臥床高齢者のリハビリテーションと筋の再生医療に全く新しい地平を開く可能性があるものとして期待できる。
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