平成20年度は、retrospectiveに、バレエダンサー46名の傷害調査を行った。 7日以上練習を休んだ傷害の既往のあるダンサーは、28名61%であり、そのうち1回のみが16名57%、2回以上が12名43%であった。傷害の部位は、下肢が80%と多く、次に体幹が20%であった。傷害後にバレエに復帰したが、傷害の影響が残っているものが、28名中27名96%にみられた。内訳は疼痛が残存するものが49%、関節の動きが悪いものが32%、パフォーマンスが低下したものが7%であった。また、現在バレエを行っていて痛みなどの愁訴があるものが59%にみられた。バレエの傷害の発生率は高い。これまでに海外のバレエカンパニーでの傷害発生率が報告されているが、全ダンサーの67%から95%が受傷している。今回の調査でもわが国のバレエダンサーの傷害の発生率が高いことがわかった。傷害発生のリスクファクターは、トレーニング因子、組織および心理社会的因子、環境因子である(Byhirig S、2002)。ダンサーが高いパフォーマンスを維持し、公演を成功させるための激しいトレーニングにより、常に身体的、心理的ストレスに曝され、これが傷害のリスクファクターになると考えられる。 今後の課題は、prospectiveな傷害調査を行い、平行してストレスやストレッサーの抽出、気分調査との関連より身体的要因と心理的要因を明らかにすることである。加えてバレエの傷害予防を考えるとき、競技スポーツと同様にバレエに対する十分な医学管理ができる舞台芸術専門外来作りも必要である。 つぎに、海外における舞台芸術と医学の関連を調査するために、The Performing Art Medicine年次総会に参加した。わが国の舞台芸術への取り組み方がまだ不十分であることがわかった。わが国では、舞台芸術に関する医学的関心が薄いことより、舞台芸術への理解、応用が重要であると考え、第34回整形外科スポーツ医学会ランチョンセミナーで「スポーツ医学の舞台芸術への応用」について講演を行った。
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