活動筋の有酸素性代謝の発動が遅れるとエネルギー代謝は無酸素性に傾き、速筋線維がより多く動員される。現在、ヒトの運動時における筋線維動員パターンを非侵襲的に連続測定できる方法は、表面誘導筋電図法の他には見当たらない。今回の研究では、筋線維の種類によって微小循環-筋細胞レベルの酸素交換の動的な応答性が異なることに着目し、運動時における筋線維動員パターンを時間・空間分解能に優れた近赤外分光装置で推定する方法を検討した。 1)一定強度の運動開始後における活動筋の脱酸素化ヘモグロビン(HHb)の応答特性から動員される筋線維を推定した。動物筋線維における酸素交換特性を基にして検討した結果、HHbの増加速度(時定数)が遅く、かっ運動時の増加量(振幅)が小さい部位(例、大腿直筋)がより多くの遅筋線維、一方、HHbの応答が速く、振幅が大きい部位が速筋線維(例、外側広筋)を多く含むことが示唆された。 2)ランプ運動時における大腿筋のHHbの空間不均一性を計測した。さらに、動静脈酸素量差を反映するHHbを積分筋電図(筋肉の活動レベルを示す)と皮下脂肪厚で補正した。その結果、負荷強度の増加に伴ってHHbの空間不均一性は減少し、最大強度では筋肉間の酸素利用が均一になった。このため、運動強度の増加に伴って、筋線維動員パターンは空間的により均一になることが示唆された。また、自転車運動と膝伸展運動の比較では、HHbの空間不均一性に違いが見られた。
|