本研究は、全盲者の反響定位能力(靴底や白仗が路面に接触ずることによって発せられた音波が、周囲の建物や障害物等に反射して跳ね返ってきたものを聴覚によって捉えることにより、周囲の環境を認識する能力)をバーチャル環境の中で安全にトレーニングするための装置を開発すると共に、訓練手法や教育効果の評価方法を確立することを目的としている。 平成20年度は、反響定位訓練システムの開発に必要な文献の収集、ならびに、要素技術(一次反射、空気減衰、ドップラー効果等)の研究と試作機の開発を実施した。 平成21年度は、一次反射や距離減衰等を実現するためのソフトウェアを改良した。これにより一次反射においては、全反射、布製カーペット、コンクリート、ビニールタイル張り、ウッド、煉瓦、石膏、全吸収など全部で8種類の壁材等を模擬できるようになった。また、距離減衰においては音源から聴取者までの距離の相違による遅延も模擬できるようになった。加えて、平成21年度の予算で購入した無線方式の高精度3DモーションセンサPolhemus Liberty Latus 240をシステムに実装するためにソフトウェアの改造を行った。これにより、音源定位(音源の位置や方向を特定すること)する際に極めて重要な、頭部運動による音像や音質の変化を模擬できるようになると同時に、短い距離ではあるが、実際に歩行しながら反響定位訓練が可能になった。さらに、歩行訓練中、壁などに衝突した際には音声でその旨を知らせると同時に、ゲームコントローラのバイブレーション機能を用いて振動による物理的なフィードバック刺激を与えられるようにした。これは室内での訓練に緊張感を与えるのがねらいである。 なお、計画では完成した聴覚ディスプレイを用いて聴取実験を行い、システムの基本的な性能評価と、訓練用コンテンツ、ならびにコースウェアの開発まで着手する予定であったが若干遅れている。
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