本年度の研究成果は、第一に、老舗金型メーカーである黒田精工(株)の創業から今日に至るまでの金型事業の変遷および技能育成の変遷に関する映像化の最終仕上げを行った。また、この映像の内容として欧州および米国、アジアにおける技能形成の特徴についてもインタビュー記録として納めている。当成果の意義は、技術発展にともない技能形成がどう変化してきたのか、そして世界各国の技能形成の特徴をまとめることにより、情報化時代における技能形成のあり方に一つの示唆を与えるものである。尚、この映像は、研究協力機関である型技術振興財団に保管されている。第二に、定点観測を行っている中国の蘇州地域への金型メーカーへの調査を行った。中国のローカル金型メーカーの技能者の技能水準の発展状況の調査を行った。世界の工場として著しい工業発展を遂げている中国の金型メーカーの労働者の技能水準が情報技術を背景とした型づくりにおいてどこまで発展しているのかを把握するための調査である。CAD/CAM/CAEを軸とした型づくりであるが、当該技術を媒介とした技能形成においては、当該ソフトに規定されたものとなるため限定的な技能形成にならざるをえず、技能の幅が非常に狭いものになってしまっていることが明らかになった。このことの原因は、設計技術者と製造工程のオペレーターが完全に分業してしまっていることから製造工程で発生する諸問題への対処が設計開発に十二分に反映されていないことによる。このことが技能形成をより限定的なものにしている大きな要因であることを明らかにした。(658文字)
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