本研究の目的は、壁画など実験室に持ちこめないサンプルについて蛍光X線分析を行うため、従来とは逆の発想で、分析装置の方に可搬性を持たせ、ラボに持ち込むことの不可能な試料についての蛍光X線分析を行うこと、或いはその可搬性を最大限生かして従来取り組めなかった分野への取り組みを目指す等、蛍光X線の可能性を広げることを目的としている。 そしてそのための装置の設計・製作・基礎データーの収集を経て、実用化を目指す。 さて従来よりこの目的を達成する手法として放射性同位体をX線源として用いる手法がある。本研究はそれに対して近年実用化された新しいコンセプトに基づくX線発生装置である「焦電結晶によるX線発生器」をX線発生源として採用し、これと火星探査機にも搭載された「Si-PIN半導体検出器」の組み合わせにより、比較的安価で可搬性に富む装置の製作を目指している。今年度は本研究室に既存の「Si-PIN半導体検出器」に加え上記、焦電結晶によるX線発生器および乾電池駆動のマルチ・チャンネル・アナライザー(MCA)等を本研究費で用意し、これらを核とするシステムの基本構成の設計、試作を遂行した。システムは三脚に取り付けられ、壁面等の分析が可能となるよう設計されている。また試料-X線発生源間の距離がX線強度に大きく影響することが確認されたのでこの値をリアルタイムで計測できるシステムを付加するよう改良中である。さらに基礎的データーとして上記放射性同位体を使ったシステムとの比較(X線強度、空間分解能)を実施中である
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