海底熱水噴出域および陸上温泉域には、数℃から数百℃までの地熱温度勾配が存在する。好冷菌、中温菌、好熱菌、超好熱菌など多様な原核生物(バクテリアおよびアーキア)にとって、このような温度勾配はその活性や生息域を決定する重要なファクターとなる。これまで、多くの研究者が海底熱水や陸上温泉に含まれる原核生物を対象とした微生物研究を行い、それらの系統、生理、代謝に関する知見が得られてきた。しかし、熱水や温泉水中の原核生物は、海底面や地表面付近に由来するのか?それとも、熱水域地下の高温環境に由来するのか?といった原核生物の真の生息域を解明することを目的とした研究はほとんど行われてきていない。そこで本研究では、リボソームRNA遺伝子のアニン+シトシンの割合(G+C含量)と微生物の生育温度が非常に良い相関を示すことに着目した微生物分子温度計を用いて、海底熱水および陸上温泉に含まれるアーキアの生育温度を推定した。さらに、現場の熱水温度と生育温度を比較することにより、海底熱水域地下および陸上温泉域地下の高温環境に由来する超好熱性アーキアの遺伝子を特定した。その結果、海底熱水噴出域の熱水域および陸上温泉域にて採取した熱水中から超好熱アーキアに由来する高いG+C含量の16S rRNA遺伝子が多数検出された。特に、水曜海山の熱水域にて採取した40℃の低温熱水中においては、85℃以上の生育温度を有する超好熱性アーキアが数多く含まれていた。これらの生育温度は現場の熱水温度を45℃以上も上回っていたことから、検出された超好熱性アーキアは本熱水域地下の高温環境に由来することが示唆された。また、過去の研究において水曜海山の海底熱水域は1〜5℃/mの地熱温度勾配を有することが報告されていることから、これらの超好熱アーキアは地下9mから45mに生息していた可能性が高いことが明らかとなった。
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