研究概要 |
ナノ粒子個人ばく露評価用サンプラの開発に当たり,携帯が容易な重量・寸法,1日の作業時間内(8時間前後)に既存分析手法による化学成分分析に必要な粒子量を確保できるサンプリング流量,空気力学径で100nm前後の分級径とシャープな分離特性,携帯型小型ポンプの使用に耐える低圧損(<5〜6kPa)といった要求事項を同時に達成できる設計条件を念頭に置き,1)単一繊維への粒子捕集効率推定式とろ過理論に基づく繊維層捕集効率および圧力損失の理論的予測,2)予測値に基づく低圧損でナノ粒子分級が可能な「慣性フィルタ」の設計,3)装置試作・評価と,繊維径・繊維充填量などの影響項目の系統的検討,4)分離特性の系統的検討に基づくフィードバックと設計修正,5)試作装置によるフィールド調査と使用結果に基づく操作性を含む改良を一連の検討プロセスとして実施した。 開発方針に従って装置改良を繰り返しながら,1)粗粒子分級用(>〜500nm)と微粒子分級用(<〜100nm)の2段直列構造をもつ「極低圧損型多段慣性フィルタ」のアイデアの検証と2)多段構造による微粒子分級用慣性フィルタの粉じん負荷の低減効果の検証を行い,3)総圧損約5kPa以下の条件での100nm前後の分級径の達成を試みた。一連の検討の結果,サンプリング流量6L/min,最小分離径約110nm,総圧損約5kPaの条件を達成した。さらに,試作装置を用いて道路トンネル,喫煙所,バス車内,電車喫煙車両内,天然ゴムシート製造工場でフィールド試験を実施し,一般的な作業環境濃度を対象とすればPAHs等の化学成分の分析必要量を十分確保可能なこと,100〜200nm以下のナノ粒子を含む超微粒子中のBaP毒性等価濃度が卓越していることなど,この粒子径範囲のばく露に着目することの重要性を明らかにした。また,さらなる装置の小型・軽量化,繊維径や充填構造の工夫による分離特性の改善と低圧損化,肺胞沈着粒子の選択的捕集の可能性の検討等の課題を明らかにした。
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