近年、ナノテクノロジーの画期的な進歩の影で、ナノリスク問題がクローズアップされてきている。 平成20年度では、分子イメージングツールとして注目されている蛍光ナノ粒子:Quantum-dots(QDs)に着目して、脳組織へのQDsの取り込みをICP-MS(誘導結合プラズマ・質量分析)、組織切片を用いて証明した。QDsは、海馬、視床、大脳皮質、脳幹、髄膜の小血管内ならびに脳実質に微小な蛍光顆粒として確認された。血行性に脳内に移行し、血液脳関門透過性を有すると考えられた。平成21年度は、QDs-cap(captopril修飾、平均直径10nm)の慢性投与マウスモデルを作製した。マウス(ICR/Jcl系統)オスの腹腔内に、QDs-capをカドミウム量として30nano mol/日で10日間投与した。最終投与1日後に、経左心的にリン酸バッファーで灌流し、脳(嗅球、大脳皮質、基底核、海馬、視床、脳幹、小脳に分離)を摘出し急速凍結した。大脳皮質、視床よりtotal RNAを回収、酸化ストレス関連遺伝子約100に関して、cDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現変動を解析した(RT^2 Profiler PCR Array System)。慢性投与10日後の大脳皮質、視床では、酸化ストレス関連遺伝子の発現変動は認められなかった。嗅球、大脳皮質、基底核、海馬、視床、脳幹、小脳から蛋白を抽出し、酸化ストレスマーカーとして、3-nitrotyrosine(3-NT)、4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)の脳内生成変動をウェスタンブロットで定量した。QDs投与群において、海馬、視床、嗅球、脳幹、小脳、大脳皮質で3-NT、4-HNEの有意な増加が見られ、海馬における3-NT、4-HNEがコントロールの10-20倍であることが明らかになった。ヒトへの応用に関しては、さらなる毒性検索が必須であると考える。
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