本研究では、製鋼用電気炉から非意図的に排出されるヘキサクロロベンゼン(HCBと略す)について、その主要生成サイトである集塵ダストの化学状態や加熱時のダイナミックスを分子レベルで解析することにより、排ガスダクトやバグフィルター内でのHCBの生成機構を解明するとともに、排ガス処理工程におけるHCBの排出抑制技術の基盤を構築するにとを目的とする。 特に平成20年度は「集塵ダストの化学状態解析に基づいたHCBの生成メカニズムの解明」に取り組んだ。具体的には、ダスト中のキーエレメント(炭素、塩素、触媒種)の化学形態解析を行うとともに、モデル炭素を用いてHCB前駆体の解析を行った。その結果、以下の結論を得た。 1. ダスト中には2.1〜6.4mass%の炭素が含まれ、その一部は50〜300℃で容易にCO_2を放出し、その量より求めた炭素活性サイト数が多いと、ダスト中のHCB濃度は高くなる傾向にあった。 2. ダスト中の塩)素量は1.9〜8.0mass%の範囲にあり、その一部は300℃までにHClとして脱離した。XPS測定の結果に基づくと、表面塩素は無機塩化物のみならず炭素と結合した状態(C-Cl結合)で存在したにとから、その有機塩素がHCBに変化する可能性が示唆された。 3. ダスト中に含まれるZnのバルクの状態はZnFe_2O_4とZnOであったが、TPD実験とXPS測定より表面ZnCO_3の存在が示唆され、その量とHCB濃度との間には相関関係が存在した。 4. フェノール樹脂から製造した活性炭と100ppmHCl/N_2ガスを用いてモデル実験を行ったところ、100℃で両者の化学的相互作用は生じ、その程度は少量のCa、Cu、Znの存在下で増大した。 5. 少なくともCa、Cu、Zn存在下では、炭素はHClと反応して有機塩素(HCB前駆体)に変化すると推測され、その効果の序列は原子数基準ではCa<Cu<Znとなることが明らかとなった。
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