DNAシーケンシングへ向けたナノ構造として、シリコン薄膜中のナノスリットに着目し、性能確認のための計算機シミュレーションと実際の作製を試みた。シリコンは波長200~350nmの紫外光に対して、屈折率、吸収係数がともに非常に大きな値を持つ。その結果、表面での反射率が高く、また裏面への光の透過が小さいため、膜表面・裏面での電場強度が非常に弱くなる。したがって、相対的にスリット内には、その上部・下部とのコントラストの高いナノ局在光が発生するので、これをDNAシーケンシングのための蛍光励起光源として利用する。厚さ5nmのシリコン薄膜内に幅2~5nm、長さ100nmのスリットを設定し、波長287nmの紫外光に対して、局在光の空間分布をFDTD法により計算した。厚さ方法にほぼ、薄膜の厚さと同程度(6nm)の局在光が発生し、上部・下部に対して20:1のコントラストをもつことを確認した。蛍光体の検出にあたっては、この波長域で励起をおこない、可視域の蛍光を測定することを想定しているので、シリコンによる蛍光信号の損失もほとんどない。シミュレーションと並行して、ナノスリットの作製も試みた。まずシリコン基板上にカーボンナノチューブを分散させ、これをテンプレートにフェムト秒レーザによるアブレーションをおこなった。シリコン単体のアブレーションしきい値よりも低いフルエンスにて、レーザパルス照射位置ではナノチューブが飛散し、ナノスケール溝が形成されていることを確認した。続いて厚さ20nmのナノメンブレンに対して同様の実験を試みたが、数nmのナノスリットの形成には至らなかった。計算機シミュレーションで示した5nmという空間分解能は、ポリマー化されたDNAの塩基配列の読み出しには十分な値であり、またナノスリット作製にも展望が得られたことは大きな成果である。
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