本研究の目的は建設現場における安全管理、品質管理、工程管理などの方法について、特に技術者集団の意志決定とその意思伝達のプロセスに対して建設社会学的な観点から検討を加えることである。2009年8月に早稲田大学大隈小講堂において「アジアとアフリカにおける沿岸域の防災・環境・管理に関する研究集会」を開催し、ベトナム、インドネシア、タイ、スリランカ、タンザニアなど各国の研究者が沿岸域のマネジメントなどに関するそれぞれの国での最新の研究状況について発表した。その際に合わせて意思決定プロセスについてのヒアリングと討論を行った。その結果、技術者の意思決定は文化的に構成された技術者社会に依存しており、各国ごとに異なる過程が存在することを確認した。昨年度に収集した建設現場のデータを分析し、「所属する組織の違い、またはその組織での立場の違いによって、作業に対する意識の違いが生まれる」ということ、また、そのような意識の違いがあっても「強固なネットワークによる連携があれば、作業効率が上がる」という二つの仮説を生成し、その有効性を確認した。 一方で、異分野の専門家同士の会話の分析を行った。理論枠組みにはバフチンの「権威的な言葉」「内的説得力のある言葉」を用いた。その結果、異なる分野の専門家の間では、互いの発言を理解するのは容易ではないが、方法を慎重に選択することによって可能であることがわかった。専門家同士の理解を促すためには、他の専門家による発言の解釈と言い換えが有効である。換言すれば、異なる分野の専門家間の意見交換においても「内的説得力のある言葉」を使用するように努めることが重要である。 本年度は、現場での参与観察結果の分析と、日本と途上国における例との間の比較研究のための材料を収集した。管理がどのようにシステムの中で有効に作用し、また齟齬をもたらしているかについても知見を集めた。
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