円二色性(CD)とは、物質(一般に溶液)の右回りと左回りの円偏光吸収の差をスペクトルとして観測したものであり、キラルな物質は一般にCDスペクトルを与えることができる。すなわち、生体物質は一般にキラルであり、円二色性(CD)吸収がある。→CD吸収とは、円偏光の吸収である。→どちらかの円偏光(右まわりもしくは左回り)の光を吸収しやすい。→キラルな化合物で構成される生物は、キラルな光を識別するかもしれない。という単純なアイデアを検証するため、まず、左右の円偏光を簡便に照射できる装置に関して日本分光(株)と共同研究開発を実施し、赤色円偏光照射装置の開発及び改良を行った。 次に、円偏光を照射する対象生物として植物を選択し、ゲノム情報が完全解読されているシロイヌナズナに、発芽後14日間、本装置を使用して、左右の円偏光を直接照射し、生育の差を観測した。その結果、初期の段階では、右円偏光では胚軸が伸長し、左円偏光では胚軸の伸長の抑制が観測できた。しかし、再現性の実験に問題があることが今回、新たに判明した。 次に、光受容体発色団フィトクロムのモデル化合物として、容易に合成可能なビリベルジンを最初のターゲットモデル分子とした。ビルベルジンのカルボン酸部分に、光学活性なアミノ酸などを結合させることにより、発色団部分をキラルに歪ませることに成功した。ねじれたπ電子系は、通常の円偏光CDスペクトルにより確認された。光学活性な部分(アミノ酸や糖)の種類の検討を行った。前述で得られるZZZ体(熱力学的に安定)を固体吸着状態で光異性化させることにより、ZZE体へ変換を試みた。
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