本研究では、「生物がキラルな円偏光を識別するか?」という単純な命題を明らかにすることを目的としている。シロイヌナズナを用いた円偏光照射実験では、左右で成長に違いが観測されたものの、実験の再現性が微妙なところにあり、個体差等の問題点が浮上した。特に、光に対する異方性の問題が重要となってくることが判明した。本問題点を解決するため、対象を光感受性微生物に変更した。用いた生物系はクラミドモナスという緑藻である。本緑藻は培養系が確立した微生物であり、その増殖を容易に数値化できることが期待される。本学低温科学研究所の植物科学者の協力のもと、クラミドモナスの実験系の確立を行った。特に、光照射の具合、時間、培養条件等の条件検討を行った。実際、クラミドモナスに左右の赤色円偏光を照射し、時間ごとのODを計測したところ、再現性良く増殖曲線を描くことができた。しかし、何度となく行った実験では、左右で顕著な差は見られなかった。これは期待していた結果でないが、本緑藻の増殖に赤色円偏光の方向性が影響しないことを明らかにした初めての例である。また、昨年度日本分光社と共同開発した青色円偏光装置を導入し、青色照射における実験条件を検討した。本装置は、世界初の青色円変更照射装置である。本装置を用いて、青色に関して同様の実験を行った。結果、青色においても左右円偏光で顕著な差異は観測されなかった。また、他生物系の検討を考慮して、他バクテリア類の生育条件の検討を開始した。
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