研究課題
本研究では、「生物がキラルな円偏光を識別するか?」という単純な命題を明らかにすることを目的としている。昨年度は緑藻クラミドモナスに着目し、企業と共同開発した円偏光装置を用いて「増殖」の様子を観察したが、左右の円偏光で顕著な差は観察されなかった。従って本年度は、クラミドモナスの「走光性」及び「光合成活性」に着目し実験を行った。1)円偏光照射対象生物であるクラミドモナスは弱光に対しては近づき(正の走光性)、強光からは逃げる(負の走光性)性質をもつ。本現象にはキラルな光受容体「ロドプシン」が関与しており、左右の円偏光で発色団の光異性化効率に差異が出る可能性がある。本性質に対する円偏光の効果を調査するため、本年度は植物生物学者と共に新たな実験系の確立を行った。実際ODの変化により走光性を観察したところ、左右で走光性に顕著な違いは見られなかった。これはロドプシンにおいて左右円偏光吸収強度の差が極めて小さいためと考えられる。2)前年度に左右円偏光でクラミドモナスの増殖に違いが出ないことを確認したが、光合成と増殖は必ずしもリニアな関係に無いことから、本年度はクラミドモナスの光合成に対する円偏光の効果を調査した。本学低温科学研究所の研究者の協力のもと、円偏光照射時の光合成活性を測定し、円偏光の方向性が光合成に与える影響を調査した。結果、光合成活性には差が出ないことがわかった。3)円偏光照射対象生物を拡大し、シアノバクテリアについても同様の実験が可能か検討した。本バクテリアはクラミドモナスとは別の光受容体を有することから、異なる応答が期待されたが、クラミドモナスと同様顕著な差は観測されなかった。本年度は左右円偏光を識別する生物、生命現象の発見には至らなかったが、上記実験は世界で初めての試みであり、今後の大きな知見になると考えている。
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