本年度は、第1に、「医学医療の公共性」問題をとくに「リューベック事件」に焦点を当てながら「人体実験」が近代医学において果たす役割を解明しながら、当時のドイツにおける医学の資格制度をめぐる争いの中で、「公共性」を担保するものは何であるかを探った。特に今日の日本で「地域医療」が問題となっていることを視野に入れながら、近代医学の在り方を問題にした。第2に、医療倫理の基礎概念の「人格」概念を解明するために、ヘーゲルの議論を参考にする。そのため、現在のヘーゲル法哲学に関係する資料を収集した。第3に、日本の地域医療の現状をとらえるために、資料収集と問題点を解明することを行った。 なお、第1点にかんしては、とりわけPUBMEDによる検索をはじめ、本による資料ばかりではなく、むしろ、論文レベルの資料の収集を主とした。加えて、当該問題に詳しい研究所の資料も検索した。ドイツのコッホ研究所、フランスのパスツール研究所、ドイツのフリードリヒ・エーベルトシュティフツング、日本の感染症研究所などの資料を検索にかけ、入手できるものはインターネットを通じて入手した。 第2点にかんしては、学生諸君と「ヘーゲル法哲学」の自主ゼミを行い、議論の分析を心がけた。また現在の研究水準を確認する作業を行った。特に第1部「抽象法」における「人格」と「所有」を市民社会の中で歴史的社会的にとらえる方向で読解を勧めている。また、地域医療にかんしては、この間に本で発表された<ガイドライン>の分析を行いながら、現在進行中のドイツの医療制度改革と比較している。
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